第12回東京科学シンポジウム(2003.11.16. 一橋大学)分科会報告

学術における男女共同参画の意義と取り組み

 

 

  1.男女共同参画の問題点−男女共同参画基本法と東大での取り組み

          大沢真理さん(東京大学)

  2.大学における男女共同参画の取り組み

     石渡眞理子さん(元東京大学)

  3.学協会における男女共同参画の取り組み

     河野貴美子さん(日本医科大学)

  4.早稲田大学地域開放型保育施設・設置の取り組みの経過について

    松本麻里さん(早稲田大学教員組合)

  図表資料

   T 大学教員等における女性比率−日本、アメリカ,EU

   U 国立大学における男女共同参画推進の実施に関する調査結果

2004年6月

日本科学者会議東京支部

113-0034 東京都文京区湯島1-9-15 茶州ビル9階 電話/FAX 03-3811-8281

URL http://www.jsa-t.jp






報告集の発行にあたって

 1999年6月男女共同参画社会基本法が制定され、日本政府は「性別にかかわりなく個性と能力を十分に発揮することが出来る男女共同参画社会の実現」を「21世紀の最重要課題」としてすすめるとしています。これを受けて総理府(現内閣府)に男女共同参画局が設置され、自治体でも男女共同参画推進委員会の設置や条例の制定などが進められています。国家公務員などでの女性の採用、登用に数値目標を設定する動き(ポジティブアクション)も出てきました。

 女性研究者に関わっては、文部科学省が女性研究者の割合を将来30%に引き上げるとの目標を示しています。また、国立大学協会は国立大学女性教職員の問題全般に関わる提言を出し、調査もしました。しかし現実には、女性であるがために、「進学をあきらめた」、「出産、育児のために仕事の継続を断念した」、「採用・昇進で不利な扱いを受けた」などの事例はあとを絶ちません。

 日本科学者会議東京支部は、上記のような状況を改善するために、女性会員を中心に運動を続けてきました。その一つとして、昨年11月に開かれた第12回東京科学シンポジウムでは、分科会「学術における男女共同参画の意義ととりくみ」を持ちました。この分科会には、大学・研究機関・企業の研究者・技術者をはじめ、学生、院生、大学図書館の職員など様々な立場の方が参加してくださいました。男性の姿も数名ありました。

 この報告集はその時の報告や質疑応答をまとめたものです。今後の女性研究者運動や性差別の問題で困ったとき、困っている人を見たときなどに役立てていただきたいと思います。例えば、もし指導教官や上司から「ここでは女はいらない」などと言われたら、「今は男女共同参画の時代です。総理大臣もそう言っていますし、文科省は女性研究者を増やす具体的数値目標をあげています。○○大学の男女共同参画宣言・基本計画には、女性研究者の登用促進が謳われていますよ。この大学でも委員会を作って同様の提言を出してください。」と堂々と胸をはって言うことができるのではないでしょうか。

 私が出産した頃は、「子持ちの女は辞めろ」と言う意見が大勢を占めていて、それに対し「女性にも働き続ける権利はあります」程度のことしか言えず、いつも悔しい思いをしていました。今は、女性研究者は社会に必要な人材であると、政府や公的機関によって認められているのです。ただ、具体的な支援策についてはほとんど実行されていません。実行させられるかどうかは、今後の運動にかかっていると思います。お力添えをくださいますよう、どうかよろしくお願いいたします。

               2004年6月  石渡眞理子(分科会担当者の一人)




付記

分科会での報告者は4名ですが、冒頭の大沢真理さんは、本文中にもありますように、総理府男女共同参画審議会委員、内閣府男女共同参画会議影響調査専門調査会会長などを歴任され、また東京大学男女共同参画推進委員会委員もされています。そのような理由から、事実上の招待講演の扱いをさせていただいています。本資料の中でも、特に大きくスペースを取ってあります。ご了承下さい。

関連情報が「日本科学者会議/女性研究者・技術者のページ」に載っています。

http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3190/ (日本科学者会議のホームページからもアクセスできます。)

男女共同参画学協会連絡会アンケート調査(2003年):21世紀の多様化する科学技術研究者の理想像--男女共同参画推進のために--- に39の学協会の会員を対象としたアンケートの分析結果がまとめられています。詳細は以下の連絡会のホームページで見ることができます。

http://annex.jsap.or.jp/renrakukai/

 





第12回東京科学シンポジウム

分科会3「学術における男女共同参画の意義と取り組み」

2003.11.16. 一橋大学

はじめに

 2003年11月16日に一橋大学で開催された第12回東京科学シンポジウムの分科会「学術における男女共同参画の意義と取り組み」には22人が参加し、4つの報告と討論がおこなわれました。はじめに主催者を代表して石渡真理子さんから、「大学については2000年に国大協が『男女共同参画推進報告書』を作成し、2010年までに女性教員の割合を20%に引き上げるという目標を設定しました。いくつかの大学ではこれに向けた取り組みがなされていますが、全体としてはまだ動きがにぶく、あまり進んでいないと感じています。男女共同参画の意義と取り組みについて皆さんと勉強していきたい」という挨拶があり、報告に入りました。

1. 男女共同参画の問題点--男女共同参画社会基本法と東大での取り組み

報告者 大沢真理さん(東京大学社会科学研究所)

 まず大沢真理さんが「男女共同参画の問題点--男女共同参画社会基本法と東大での取り組み」と題して話されました。大沢さんは1995年から2000年まで総理府の男女共同参画審議会委員をされ、2001年5月からは内閣府男女共同参画会議の中にある影響調査専門調査会(政府の政策のジェンダーインパクトアナリシスをするところで、社会保障制度や税制が男女共同参画に及ぼす影響を調査している)の会長をしておられます。東京大学では男女共同参画推進委員会の委員もなさっています。

 

男女共同参画とは 

「男女共同参画」の日本政府の中での位置づけは、橋本内閣以来歴代総理大臣が「男女共同参画」は日本の構造改革の「大きな鍵」「大きな柱」であると表明してきたことに示されています。国会でも小泉首相が21世紀の国家の理想像はと聞かれて「男女共同参画社会の実現」と答え、先進諸国に対して遜色のない男女共同参画社会を築くと述べています。「基本法」の前文にも、「男女共同参画社会」の実現が21世紀日本社会を決定する「最重要課題」であると記されています。

 「男女共同参画社会」は性別にかかわりなく個性で輝く社会であるという趣旨が、基本法の前文に書かれています。「男女共同参画社会」の法令上の定義は、1994年に政令できめられたもので、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意志によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的および文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」というものです。ここに男女平等という言葉がないために、従来の男女平等や、憲法に規定された法の下での男女平等や両性の本質的平等とどうかかわりがあるのか、とまどいや混乱もありました。この点については、1996年7月に橋本総理に出された男女共同参画審議会の答申「男女共同参画ビジョン」の中で「男女共同参画」が真の男女平等をめざすものであると規定され、男女共同参画社会づくりが真の男女平等の達成に向かう手段でありプロセスであるとはっきり位置づけられました。「男女共同参画ビジョン」ではまた、女性と男性が「社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に縛られず、各人の個性にもとづいて共同参画する社会」をめざすと述べられています。

 

男女共同参画社会基本法 

「男女共同参画社会基本法」は、1998年11月に出された審議会の答申をもとに政府が法案を作り,1999年6月に国会で成立しました。政府が作った法案には前文がなかったのですが,先に審議された参議院で前文が加えられて、全会派一致で成立しました.この前文に「21世紀の最重要課題」、「性別にかかわりなく個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現」という言葉が入りました。

 この法律の基本理念としてかかげられているのは

 1,性別による差別的取り扱いを受けないことなど男女の人権尊重(第3条) 

 2,社会制度・慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響を中立的なものとするよう配慮すること(個人が社会の中でいろいろな活動をしたり一定のライフコースを選択するとき、社会の制度や慣行がそれに対して中立的でなければいけない。固定的な性別役割分業にもとづいたライフコースに人を誘導するような社会制度であってはならない)(第4条)

 3,政策・方針の立案および決定への男女共同参画(ポジティブアクション)(第5条)

 4,家庭生活における活動と他の活動(職業、地域での活動や趣味の活動など)の両立(第6条)

 5,国際的協調(第7条)

などがあります。

国と地方公共団体,および国民にそれぞれ責務が規定され,特に国と地方公共団体には格差を改善するために「積極的改善措置」をとることが決められています(ポジティブアクション).この法律の推進体制として,内閣府の4大会議のひとつに男女共同参画会議を置くことが決められました.ここでは男女共同参画基本計画等に関する調査,審議のほか,

 1,政府が実施する男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施状況の監視

 2,政府の施策が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響についての調査

 3,首相および関係大臣に意見を述べる.

などをおこないます.府と省の全大臣が会議のメンバーで、小泉総理は会議に毎回出席しています。

 

基本法制定後の動き−ポジティブ・アクションを中心に

「男女共同参画社会基本法」制定後の動きは以下の通りです。政府・審議会は2000年12月に男女共同参画基本計画を閣議決定しました。小泉内閣では経済財政運営と構造改革の基本方針である「骨太の方針」に、男女共同参画社会の実現を掲げました。税制、年金制度などの再検討が進み、2004年1月から配偶者特別控除を原則廃止とすることが決まりました。年収500万円位の世帯では年約5万円の増税になりますが、この財源の一部は児童手当の支給期間を増すことにまわされます。配偶者の所得が単に一定限度以下だということで税金を少なくしていたことを廃止し(課税することにし)、実際に子育てをしている世帯には支援を強めることになりました。国や自治体では、男女共同参画に関する条例やDV法なども制定されました。

 ポジティブアクションに焦点をあわせますと、女性の採用・登用に数値目標を設定をする例がでてきました。学術会議、国大協、国家公務員、歩みは遅いですが民間企業でも動きがみられます。大学では東北大、名古屋大、東大で提言などがだされました。人事院は2001年5月に「女性公務員の採用・登用の拡大に関する指針」を出し、2002年1月までに全府省と31政府機関で計画が策定されました。2003年4月に男女共同参画会議は「女性のチャレンジ支援策の推進」を決定しました。そのなかには女子学生・女子生徒の支援、研究分野における女性のチャレンジ支援が含まれています。

 

東京大学の男女共同参画への取り組み 

東京大学では2001年度に総長室補佐会の中に男女共同参画検討ワーキンググループが設置され、約1年かけて検討し提言をだしました。2002年6月、UT21会議(学術経営戦略会議・評議会メンバープラスアルファーで構成)のもとに男女共同参画推進委員会が設置され、この下に基本計画策定専門委員会(大沢さんが座長)が設置されました。基本計画の策定にむけて、学生院生からの意見公聴会(2002年11月)、すべての部局長のところに行き、どのような回答を出してくれるかを聞く(ヒアリング、2002年10-12月)、基本計画案の骨子を公表(2003年4月)、意見公募、意見交換会の開催(2003年5月)などをおこないました。2003年12月の評議会で、男女共同参画基本計画が決定される予定です。数値目標を含む女性教員のポジティブアクション、若手女性研究者の支援、教育における男女共同参画を盛り込んだ計画です。

 (追記:東京大学男女共同参画基本計画はホームページでご覧になれます。http://www.u-tokyo.ac.jp/jpn/activity/sankaku/index.html)

 大学におけるポジティブアクションの課題についてはいろいろ議論しました。ポジティブアクションは、行政面では当然妥当とされています。東大の職員の採用・登用については、文部科学省の「女性職員の採用登用計画」がかかわっています。これは、平成17年度(計画の最終年)の採用・登用に女性が占める割合は、平成13年度始め(計画の開始年)より2割増えていなければならない、というものです。東大くらいの規模であれば、採用・登用の際の選考基準について、適材適所、成績主義の原則をつらぬきながらも、なお女性の比率を増やそうという努力はそう難しいことではありません。これに対して教員の選考は、小選挙区のようなもので、1人だけを選ぶわけですが、その時ポジティブアクションがどう可能なのかについて、男女共同参画基本計画の策定専門委員会で議論しました。ベストの中のベストを選ぶときに性別を配慮する余地はないという意見も出されました。しかし人事選考の基準は、大きいか少ないか、高いか低いかというような一次元的なものではなく多次元的です。その一つとして国籍とか年令、性別などの配慮を入れることは検討に値する、ということで賛同が得られました。

学内では、業績や経歴が同じなら女性を優先するという申し合わせを確認した部局(地震研究所)、計画期間内に女性教員をふやす数値目標を決めたところ(農学・生命科学研究科)、教授・助教授・助手の現在の女性比率を職階ごとに上げる(例えば教授の比率を現助教授の比率まで上げる)計画を立てたところ(理学系研究科)などがあります。

 これについて司法判断はどうなのかということですが、欧州司法裁判所のアブラハムソン判決があります。スウェーデンの男女平等法などによって大学教授を公募する際、女性を優遇選考するという優先処遇がEC指令(男女平等指令)に違反し、逆差別であるとされました。女性だからと一律に何点か加算するのはいけないということです。同時に、多次元の評価の一つとして優先処遇が入っていれば認められることも示されました。最近アメリカのミシガン大学のポジティブアクション(主に人種に関するもの)について連邦最高裁判決がでました。ロースクールのアファーマティブアクションでは個別事情の考慮がなされているので合憲、学部レベルでは一律加点方式だったので問題だという判決でした。

質疑応答

お話に続いて、大沢さんが質問を受けられました。

・学術会議、学会での動き:学術会議での女性の比率を上げるということもありますが、18期(現在は19期)の学術会議で「ジェンダー問題の多角的検討特別委員会」が設けられ、放送大学の原ひろ子教授が中心となってヒアリングなどをしておられます。学術会議の会員選挙で選挙権をもつには、その都度学協会の登録が必要ですが、その登録フォームに会員と役員の女性比率などを報告するようにしました。その結果会員には女性が多いが役員に女性が少ない学協会が少なくないなど、いろいろなデータが明らかになってきました。内閣府の4大会議の一つである総合科学技術会議にも、ジェンダーセンシティブな考えを持ってもらう必要があるだろうということで、学術会議からアプローチをする動きがでています。そのような中で、理工系の学協会ががんばっておられます。理科系の方々は、やらなければならないとなると純粋におやりになるという点が、印象的です。

 大沢さんが参加されている社会政策学会(会員約1,000人)では女性会員の研究支援ができないかと議論し、学会や研究会での託児施設を考慮するほか、研究の奨励をおこなっています。ジェンダー分科会として、常勤のポストに就いていない「若手」研究者(自然年令は問わない)を対象としたジェンダー研究奨励賞を出す動きをしています。

・育児施設について:東大では高いプライオリティーで取り組んでいくことにしています。消防署が使ってはいけないという古い建物を使用していた駒場の施設は、緑の多い良いところに新築し、NPO法人を作って経営を委託するという計画があります。本郷キャンパスのたんぽぽ保育園は、文京区に認可されているため教職員・学生院生が主に使うことができませんので、早急に考えなければならないと思います。少なくとも大学院生の募集要項に育児施設の情報を書くべきだと、男女共同参画基本計画策定専門委員会でも議論しました。そのような情報がないと、受験して合格しても実際にやっていけるのか、判断がつかないことがあり得ます。もちろん、院生だけでなく学生にも同じ事が言えます。国大協のアンケートによれば、現在99ある国立大学のうち、育児施設があるのは25大学くらいです。施設の数は31で、そのうち3つが東大にあります。

・男女共同参画について:東北大学と名古屋大学では一年ごとの重点課題としておられるようです。国立大学の法人化後は中期計画・中期計画をつくることになり、これが大学の評価の対象ともなりますが、東大では男女共同参画基本計画を中期計画・中期目標の一環として明確に位置づけ、6年というスパンで計画を実施することにしました。

・私立大学の男女共同参画について:経済経営系のデータを見ますと、規模の大きい私立大学は学生も教員も男性が多いのです。私学では「建学の精神」が尊重され、教授会、評議会より理事会の力が強いなどの事情があります。しかし国庫から私学助成金がでており、国の政策を尊重して男女共同参画に取り組むことが私学にも求められています。ただ、チェックが入らないとなかなか進まないかもしれません。国立大学が法人化され、教育研究資金を獲得する際などの大学間競争に国立大学も参加して競争が強まるようになると、国立大学の男女共同参画の取り組みが私立大学にも刺激になっていくと良いがと思っています。

・ワーキンググループなどでの話し合いの際に、学問分野の違いによる温度差を感じられたか:理科系、文科系とは言えませんが、業績が大事で、その基準は、権威のあるジャーナルに論文を何本だしたか、何度引用されたか、資金や賞をどれほど獲得したかである、という意見は強く、人事選考に性別の入る余地はないという話になりがちです。しかし、いま理科嫌いとか科学離れなどといわれ、科学研究の裾野があぶないと感じています。このようなときに、教員に「エース」を迎えるのは良いですが、研究はできても教室の運営もろくに出来ない、大将は賞をもらったが弟子はみな壊れてしまったというような研究室も、大学にはたくさんあります。そういう苦情は学生相談所、留学生相談所、セクハラ相談所などにもちこまれますので、あの学部のあの研究室は人間関係が大変なことになっていて、若い人の芽をつんでしまっているということもわかります。教授が賞をもらっても、弟子をはじめとして研究の裾野や足腰がだめになれば、5年後10年後には(全体が)だめになってしまいます。人間関係についての能力や、自分の専門以外のさまざまなことについて最低限の常識を持っている人、そういうことが人事選考で配慮されなければおかしいです。これはファカルティディベロプメント(FD)という概念で、東大でも今後きちんと取り組むべき事と了解されています。これまでは研究業績がすぐれていれば、教育もできるし人間関係も処理出来ると、自動的に想定されてきました。そうでないことが明らかなので、研究だけでなく教育のスキルや教育にかける情熱やエネルギー、最低限セクハラはしないなど、人間関係のモラルとスキルを重視することも大切だと、策定専門委員会では話し合いました。

・男女の差がきびしく、女性の短期雇用が増えている雇用の場における男女共同参画について:1990年代の後半から女性の雇用の非正規化が一段と進み、労働条件が不利益に変更されるケースが目立っています。今、日本の企業がおこなっているリストラや人事処遇制度の改革などは、中長期的にみて経済合理的かというと、そうではありません。企業がどういう人材を中長期的に安定的に雇用し、どういう仕事につけていくか、別の仕事は例えば契約社員やパートにするか、中長期的に処遇する人材はどう能力を伸ばしていくかなどを、人事管理では考え、まとめて雇用ポートフォリオと称します。最適雇用ポートフォリオになっていないというのが、この間のリストラなどについて労働経済学者などが指摘していることです。非常に目先の人件費削減に走っているため、5年後10年後の企業の人的資源はお寒い状態だといわれています。例えば、何が何でも女性を非正規化してしまうとか、切ってしまうとか、女性を参入させないとか。次の決算までというような超短期的な観点ではなく、もう少し長い目でみれば、男女共同参画を進めることが企業の効率性や競争力アップにつながるという研究も行われています。そのような研究結果を企業の経営者に知ってもらう取り組みも必要です。

・少子高齢化社会の中で、女性の力を発揮するプログラムはあるのか:生産年齢人口の減少はすでに避けられない既定の現象です。しかし、肝心なのは労働力人口であって、労働力率を上げれば、働く人一人一人が支払う社会保険料と税金の、所得に占める割合は過重にはなりません。将来は働く人の頭数を増やして分担するようにしないと、収入の半分以上が社会保険料と税金にとられてしまうということにもなりかねません。それでは誰の労働力率を上げるかといえば、これまでは中高年男性と言われてきました。しかし国際的に見て日本の高齢男性の労働力率は高く、逆に30代の女性の労働力率は低いです。つまり、30才代の女性の就業に期待するしかありません。そのためにいろいろな取り組みが計画されています。300人以上の労働者を雇用する企業と自治体には「次世代育成支援対策」の計画を出させることになっています。子育て期の人の残業を削減する、父親が子供の出産に際して休暇を最低5日とる、育児休業の取得率目標を決めるなどで、これを実現するための計画を作ることになっています。東大でも1年位の間にこの計画を作らなければなりません。

 

2. 大学における男女共同参画の取り組み

報告者 石渡眞理子さん(元東京大学工学部)

 まず現状ですが、大学における女性教員の比率を職名別に見ますと、上位に行くほど低くなっています(2002年、教授8.8%、助手21.7%)。2002年の国・公・私立大学全体での女性教員比率は約15%、女子院生の比率は約27%です。1955年には教員、院生共に約5%、1975年頃は約10%でした。1979年、女子差別条約が国連総会で採択されて、1980年ごろから女子院生の比率は急増し、女子学生の比率も1955年の12.4%から2002年の36.2%に増えました。これに対して女性教員の比率は追いついていません。教員の意識改革がなされていないと思われます。

 国立大学協会は2000年5月に男女共同参画推進報告書を作成し、「2010年までに女性教員の割合を20%に引き上げることを達成目標として設定することが適当であると思われる」としましたが、国立大学での女性教員比率は現在約8%(助手を除く)で、目的達成にはかなりの努力が必要です。ロールモデルをふやすためにも、平和・環境・生活と密接した研究をおこなう上でも、セクハラ防止のためにも、女子学生、院生とのバランスを考慮して女性教員をふやす取り組みは重要です。

 男女共同参画推進報告書では、次のような提言をおこなっています。○大学における男女共同参画推進のための姿勢と方針の明確な表明、○カリキュラムおよび研究に於けるジェンダー学の拡大充実、○大学に於ける女性の雇用および教育関連の実状把握のための調査資料の整備、○女性教員増加のための教員公募システムの確立とポジティブアクションの採用、○理工系、その他特に女性の少ない分野への女性の参画の推進、○非常勤講師の処遇および研究環境の改善、○研究における男女共同参画の推進、女性研究者の研究環境の改善、○不服申立制度の導入、○セクハラの防止と問題への対処、○育児環境の整備、介護との両立支援、○通称(旧姓)の使用、○その他

 

3. 学協会における男女共同参画の取り組み

報告者 河野貴美子さん(日本医科大学)

 2002年10月に自然科学系の32学協会が参加して「男女共同参画学協会連絡会」が設立されました。現在は次の20の理工系学会が参加しています。

 応用物理学会、化学工学会、高分子学会、日本宇宙生物科学会、日本化学会、日本原子力学会、日本植物生理学会、日本数学会、日本生化学会、日本生物物理学会、日本蛋白質科学会、日本生理学会、日本天文学会、日本動物学会、日本比較内分泌学会、日本物理学会、日本分子生物学会、日本女性科学者の会、日本発生生物学会、日本細胞生物学会

 「男女共同参画学協会連絡会」は文部科学省生涯学習政策局の委託を受けて2003年8月から10月に、参加学協会の会員など科学技術系専門職を対象にした男女共同参画に関する大規模な意識・実態調査をおこないました。結果の集計はこれから行われますが、行政へ提言するなどの基礎データとして期待されています。

 河野さんが所属している生理学会は8年前に「生理学女性研究者の会(略称WPJ)」を立ち上げ、毎年の生理学会大会前日に「生理学女性研究者の集い」を開催するなどの活動をしてこられました。2002年3月には生理学会内に「男女共同参画推進委員会」もでき、学会開催時に保育室を設置してもらえるようになりました。生理学会の女性研究者が会を早くから立ち上げた理由として、医学部の中でいろいろ苦労した女性が多いことが挙げられます。その方達が中心となって女性研究者の会ができました。会のメンバーの中から教授や学会役員も誕生し、学会の機関誌にも関連記事が掲載されるようになったとのことです。

 

4. 早稲田大学地域開放型保育施設・設置の取り組みの経過について

    報告者 松本麻里さん(早稲田大学教員組合)

 教員組合・職員組合は2001年の春闘で学内に託児所の設置を要求することを決め、アンケート調査をおこないました。この結果をもとに大学理事会と交渉を重ね、設置が認められました。運営形態などは、組合からの選出メンバーも加わったワーキンググループが検討しました。学生も利用するためできるだけ負担を軽くしたいと、都の認証保育所制度の認定を申請しましたが、これは認められませんでした。

 2003年4月、理事会が選定した保育サービスの委託業者が設置の主体となって保育施設が開設されました。保育時間は7:30〜22:00、現在入所者は35名で、うち大学関係者は8名(学生院生7、教員1)です。利用者、大学、業者からなる運営委員会が設置されて、よりよい運営にむけた検討が重ねられています。教員が育児をしながら仕事を続けるということは、学生院生に対する長期的な教育効果もあるのではないかと期待されます。大学における男女共同参画の具体化にむけた社会的動きも、保育施設の要求を実現させる根拠になったということです。

総合討論

 報告のあとの総合討論では次のような意見がだされました。

*大学としては男女共同参画に取り組んでいるが、女性教員の数は少ない。ポジティブアクションを進めて、女性教員を増やして頂きたい。

*若手の女性教員の中には、託児所ができても子供を産めるか心配する声がある。教員がほとんど育児休暇をとらず、長期休暇や研究休暇(サバティカル)などを利用している。男性も含めて全体に仕事の量を見直すことも考えないと、制度だけ作ってもだめなのではないか。

*妊娠、出産、子育ての前に、流産や早産で悩む人が多い。公に語られることがほとんどなく、配慮もされていない。

*大学で男女共同参画についての公聴会があった。出産、子育てと研究について、どのような支援ができるか等の話がでた。院生が出産する場合、受けている研究費を出産後にずらせて使えるようにしてもらいたい、教員など任期がついている人が出産する場合は任期をずらせてもらいたい、実験系では帰りが遅くなるので長時間みてもらえる保育室が必要、研究費の申請に女性を優遇しても良いのではないか、女性のための子育て支援ファンドを大学として作れないかなどの意見が出された。

*国立大学が法人化されて教員に任期がつくと、働きながら子育てをするのが難しくなるだろう。子供を産めないと言う教員も増えるのではないか。

*(男性)自分が勤務する研究所は独立行政法人化されたので、成果を上げなければならなくなった。若い人や女性のことを考えにくくなったように思う。子育てしながら研究というのは難しそうだし、研究所の規模が小さいので職場に保育施設を作るのも大変だと思う。人員削減で若い人に技術や知識の継承がしにくくなっている。

*(文系では)大学に保育室があるより、地域の保育室の方が便利。コンピューターによる支援も重要で、自分に必要なデータを得やすい。

*(理系では)研究室に行かないと仕事ができない。自分は大学の保育所を利用したが、大学内の大勢のお母さんと友達になれて心強く感じた。職場保育所は必要。

*(男子学生)自治会の執行部は主に男性。昨年、大学でセクハラ問題があったが、執行部の女性が「相談所の人が男ばかりでは相談できない」と指摘してくれて、そういうものかとはじめて認識した。言われるまで気づかなかった。考えようとしても分からないことがある。男性もこのシンポジウムのような場を通して女性の感覚を身に付けなければいけないと思った。

*(修士1年)院の自治会で1996年から保育所問題をとりあげている。今年、副学長から「検討する。取り組みはしていく」という話があった。自分はまだ経験していないことが多いが、研究を目指しているという立場でいろいろ勉強していきたいと思う。このシンポジウムは大変有意義であった。

* 同じ業績を持っているなら女性を採用するというが、院入試の段階で女性はやめた方がよいと言われたり、就職差別や海外研修が受けられないなどの差別もあり、学歴にブランクのある人も多い。

*院生の頃はあまり差別を感じないが、パーマネントの職を得る年になって期限付きの職しかないことがわかり、はじめて差別に気づくことも多い。

*このシンポジウムのような集まりにも若い人の参加が少ない。若い人は男女間の差別についてあまり気にせず、何かあってもあまり主張をしないように思う。身近でセクハラがおきたが、まわりが男性だけでは相談ができない。職場でセクハラの話を聞く機会があったが、この話をきいてもらいたいと思った上司は聞きに行かなかった。問題があるときは、女性から男性に伝える方法をもっと考えると良いと思う。話をだしても、男性にきちんと伝わっていないような気がする。

*自分に問題がおきないとなかなか話ができないのだが、話し合いの場は必要だと思う。人が集まり、いろいろな話がでれば、若い人にも男性にもその話題を広げることができる。

*職場では女性の問題を取り上げにくくなっているが、自分たちの要望をきちんと当局に伝えるためにも、組合の女性部は必要だと思う。

*大澤先生は大学に育児施設は必要、大学院の募集要項に育児施設の情報を書くべきだといわれた。このような時代がきたことを嬉しく思う。

終わりに

最後に石渡さんから、「我々が得たものを何とか次の世代に引き継ぎたい、学び働く女性をふやしていきたいと考え、そのための情報を共有するためにホームページを作っています。何かあれば、ぜひ連絡して下さい」という挨拶とお知らせがあり、シンポジウムを終了しました。

    http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3190/

    e-mail:jsajosei@jcom.home.ne.jp






図表資料編

図表資料−T 大学教員等における女性比率(日本、アメリカ,EU)

 出典:

 (1)国大協報告書「国立大学における男女共同参画を推進するために」(2000年6月)

 (2)日本学術会議第1部「ジェンダー研究連絡委員会」・第2部「21世紀の社会とジェンダー研究連絡委員会」合同シンポジウム−科学技術とジェンダー−(2004年2月23日)

 図1a 国立大学における学部、修士課程、博士課程の卒業者および教員の女性比率の推移

 図1b 4年制大学教員の職名別男女比(1998年度)(文部省学校基本調査より;石渡)

 図2a US-1 アメリカの高等教育における修士学生、博士学生、教員の女性比率の推移

    (1969/70〜1995/96年)

 図2b US-2 アメリカの高等教育におけるフルタイム教員の職階別女性比率の推移

    (1985〜1995年)

 図3a Percentage of women among S & E graduates and reseachers,head count,2001

 図3b Percentage of women and men among all academic staff who are Grade A, Head

     Count,2000 (ranked by differential in the probabilities between the sexes)

 

図表資料−U  国立大学における男女共同参画推進の実施に関する

        第1回追跡調査結果

 出典: 国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第1回追跡調査報告書

    (2002年11月13日,国立大学協会)

 報告書の利用状況についての設問(図U−1)

 報告書で提案している内容についての実施状況(図U−2)

 男女共同参画を推進するための対策(1)広報・啓蒙活動と指針等制定(図U-3-1(1))

 男女共同参画を推進するための対策(2)推進担当組織の設置と活動状況(図U-3-1(2))

 公募システム(図U-3-2(1))

 女性教員増加を目指した具体的な方策の実施または検討(図U-3-2(2))

 理工系、特に女性が少ない分野への参画推進(図U-3-2(3))

 研究における男女共同参画の推進と女性研究者の研究環境の改善(図U-3-3)

 学内保育制度の整備状況(図U-3-4(1))

 育児休業期間の代替教員の予算措置(図U-3-4(4))

 

以上




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