1月女性会員の会「会員を囲んで」第5回
話題提供:平田愛子さん


レジュメ

「酵母は高等真核生物(哺乳類、人間も含む)と類似の遺伝子をもっており、精密な遺伝子解析が適用可能であり、更に、細胞生物学的にも細胞内小器官(オルガネラ)を1セットもっていて、高等真核生物のモデル系として、遺伝学的に、生化学的に、そして超微形態学的に研究材料として使われています。  酵母細胞は大変厚い細胞壁をもっているために、動物細胞と比較して通常の固定が困難です。そのため、いろいろ工夫がなされ、細胞壁の一部を破壊したり、酵母細胞壁溶解酵素により、細胞壁を部分溶解させたりしてオスミウム固定をしてきました。近年、私が酵母の微細構造の観察に使用している急速凍結置換固定法は、化学固定剤を使用せずに、凍結固定する方法でアーティファクトが最も少ない方法であると考えられています。この方法は液体窒素で冷却した液体プロパンを冷媒として用いて、酵母細胞をミリ秒(1/1000秒)以下の速度で急速凍結することで、細胞内の水分は氷の結晶を作らずに、ガラス状(アモロファス)に凍って、細胞内微細構造を維持する方法です。酵母の各種遺伝子変異株について、急速凍結置換固定法を行い、電子顕微鏡観察した結果についてスライドを使ってお話ししたいと思います。」

感想文
河野貴美子

女性の会主催の「会員を囲んで」は順調に回を重ねて、その第5回目となる会を2004年の初頭、1月17日に文京シビックセンターで開きました。講師は「東京大学大学院 新領域創生科学研究科 先端生命科学専攻」という長ーい名称のところに本郷キャンパスから柏キャンパスへ移られて、定年後もご活躍の平田愛子さんです。いつもながら、お茶菓子をいただきながらのなごやかな会で、参加者11名が「目で見る生命科学」と題した大変興味深いお話に聞き入りました。 平田さんは長年、電子顕微鏡に携わってこられ、その第1級の技術は先生方みなから頼りにされて‐‐いえ、頼りにされすぎているようです。「私は先生方のお手伝いですから‐‐」と謙遜しておられましたが、女性ということでなおそうなりがちなのではないかと感じられました。でも、ご自身研究者として酵母を専門とし、欧米有力誌の原著に名前を連ねるとともに、表紙を飾った電顕写真も何枚かあるとのことでした。 電子顕微鏡も酵母も言葉は誰でも知っており、何となくわかっているつもりになっていますが、誰もが使った経験を持つ光学顕微鏡と違って、電子顕微鏡に触れたことのある人は少ないでしょう。また、酵母も食品としてお世話になっても実際に構造まで目にする機会はありません。電子顕微鏡では、まずその標本作りが腕の見せ所です。従来の化学固定ではなく、ミリ秒以下の急速凍結置換固定法を採用して、細胞内の微細構造を生きている状態を維持したきれいな撮像をスライドで、たくさん見せていただきました。  酵母は単細胞生物ながら、人間等、高等真核生物と同じように細胞内の各器官を1セット揃えているので、実験モデル系としていろいろ使われるそうです。特に、高等真核生物類似の遺伝子をもっていて、その1倍体の標本が得られるため、最近の遺伝子解析で盛んに使われるとのこと。わずかな遺伝子変化が形態のどこに作用するかなど、電顕写真を示しながらの説明は、全く知らなくても「目で見て」納得させられるお話でした。  現在の生化学の熾烈な遺伝子競争の一端を最後に話されて、一刻も早く論文にしなければならない研究者の厳しい状況をあらためて考えさせられました。




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